Sister

Sister x パトリシオ・グスマン監督「光のノスタルジア」「真珠のボタン」

Sister x パトリシオ・グスマン監督「光のノスタルジア」「真珠のボタン」
2011年山形国際ドキュメンタリー映画祭 「山形市長賞(最優秀賞)」受賞作品

宇宙の壮大さに比べたら、チリの人々が抱える問題はちっぽけに見えるだろう。でも、テーブルの上に並べれば銀河と同じくらい大きい」P.グスマン

チリ・アタカマ砂漠。標高が高く空気も乾燥しているため天文観測拠点として世界中から天文学者たちが集まる一方、独裁政権下で政治犯として捕らわれた人々の遺体が埋まっている場所でもある。生命の起源を求めて天文学者たちが遠い銀河を探索するかたわらで、行方不明になった肉親の遺骨を捜して、砂漠を掘り返す女性たち……永遠とも思われる天文学の時間と、独裁政権下で愛する者を失った遺族たちの止まってしまった時間。天の時間と地の時間が交差する。

2015年 ベルリン国際映画祭銀熊賞脚本賞受賞2015年山形国際ドキュメンタリー映画際インターナショナル・コンペティション部門出品

水には記憶があるという。ならば、私たちは失われた者の声を聞くことができるのだろうか。さまよえる魂たちも、安らげるのだろうか。
全長4300キロ以上に及ぶチリの長い海岸線。その海の起源はビッグバンのはるか昔まで遡る。そして海は人類の歴史をも記憶している。チリ、西パタゴニアの海底でボタンが発見された。--そのボタンは政治犯として殺された人々や、祖国と自由を奪われたパタゴニアの先住民の声を我々に伝える。火山や山脈、氷河など、チリの超自然的ともいえる絶景の中で流されてきた多くの血、その歴史を、海の底のボタンがつまびらかにしていく。

パトリシオ・グスマン

パトリシオ・グスマン (Patricio Guzman)

1941年、サンチャゴ・デ・チリ生まれ。 マドリッドの公立映画学校に通い、主にドキュメンタリーを学ぶ。
軍事クーデターでサルバドール・アジェンデ政権が倒れた後、サンティアゴのエスタディオ・ ナシオナル・デ・チリ(国立競技場)の独房に監禁され、処刑される恐怖を味わった。
1973年、チリを後にした彼は、キューバ、スペイン、そして現在も暮らすフランスへと移り住んだ。
これまでに多数の国際映画祭に選出され、いくつもの賞を受けている。

2010年公開の「光のノスタルジア」は2010年 ヨーロッパ映画賞・最優秀ドキュメンタリー賞受賞、カンヌ国際映画祭・非コンペディション部門正式上映作品。
2011年に国際ドキュメンタリー協会賞(IDAアワード)・最優秀ドキュメンタリー賞受賞。
2013年には21世紀を代表する最優秀ドキュメンタリー20本に選出される。(イングランド”Sight and Sound”誌の選出)

最新作「真珠のボタン」は2015年、ベルリン国際映画祭 銀熊賞脚本賞受賞、山形国際ドキュメンタリー映画祭 インターナショナル・コンペディション部門出品作品である。

宇宙が見せる遠い過去と、時代が隠す近い過去の接点としてのこの現在、自然の美しさとともに人間の恐ろしさを、グスマンは詩人の眼で明らかにする。(『光のノスタルジア』『真珠のボタン』)

谷川俊太郎(詩人)

そもそも南米には、政治と文学とドキュメンタリーと詩と娯楽と前衛と歴史と超歴史と現実と非現実と、映画とそれ以外の区別が無い。という伝統をありありとあけすけに、のびのびとやりたいだけやった2作品。何をどう感じれば良いのか失ってしまうほどの、圧倒的で静謐な混交。(『光のノスタルジア』『真珠のボタン』)

菊地成孔(音楽家/文筆家)

人間の骨を形成しているCaが星々で発見されるCaと同じものである。と天文学者の話しを聞きながら、失った遺族の骨を探す女たちの対比。アタカマ砂漠のリアルな空間は観ている私達の記憶でも在る。(『光のノスタルジア』)

北村道子(スタイリスト)

どちらの映画も、あまりにも悲しいことを信じられないくらい美しい映像の『ことば』で描いている。美しすぎて一度も目を離すことができなかったからこそ、歴史の悲しい真実というものは時の流れと宇宙の中に自然に埋もれていくのではなく、人間の心の汚れだけが不自然なのだと理解できた。このような表現のしかたに対する敬意だけが、このふたつの映画を見終えた私の心の中に静かに響いている。 (『光のノスタルジア』『真珠のボタン』)

吉本ばなな(作家)

チリはもっとも美しい空を有すると同時に、人間による愚かな歴史を持っている。天体望遠鏡に届く光と、砂漠のなかに埋もれる数十年前の歴史の闇。星と骨、葬られた者を探し、静かに罪を問い、大きな時の流れへと観る者の目を開かせる。(『光のノスタルジア』)
チリに存在した海洋民族のことを、多くの人はこの映画によって初めて知ることになるだろう。水滴と海、宇宙と人間……視点の拡大と縮小を繰り返した先に見えるのは、歴史の外に放り出された真実の欠片だ。わたしたちは、それをひろって光に透かす。(『真珠のボタン』)

今日マチ子(漫画家)

チリ北部、アンデスの高地に広がる砂漠。乾燥しきった気候のため、アタカマ電波望遠鏡群を始め多くの望遠鏡が設置され、天文学者は宇宙が語り掛けてくる微かな声に聞き入っている。他方、砂漠の砂粒の中にピノチェット時代に行方不明になった人々の骨を探す人たちが、亡き肉親との無言の対話を続けてもいる。溢れる光の中の天と地の永遠の対話が過去を蘇らせているのだ。よりよい未来を創り、内面の自由を得るために過去と向き合うことの大事さを痛感する。(『光のノスタルジア』)

チリの最南部、パタゴニアは水に溢れ、海の底から昔投棄された真珠のボタンがもたらされる。そのボタンには、19世紀末の入植者による先住民の虐殺物語やピノチェット時代に海に投げ捨てられた「政治犯」たちの悲痛な声が刻印されている。失われた人々の無念の思いが、繰り返す波音とともにいつまでも心に響く。(『真珠のボタン』)

池内了(天文学者)

その他レビュー(※敬称略・順不同) 畠山直哉(写真家)、菊地成孔(音楽家/文筆家)、大谷能生(音楽・批評)、野谷文昭(東京大学名誉教授・ラテンアメリカ文学翻訳家)、森山開次(ダンサー・振付家)、港千尋(写真家・映像人類学者)、和合亮一(詩人)、北村道子(スタイリスト)、柴幸男(劇作家・演出家/ままごと主宰)、ひらのりょう(アニメーション作家・漫画家)、石内都(写真家)、小林エリカ(作家・マンガ家)、池辺葵(漫画家)、ヒグチユウコ(画家)

2015年10月10日(土)より、岩波ホールほか全国順次公開

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